2017年4月13日
4月よりシネマ・チュプキ・タバタの一員となりました。進と申します。当ブログでは初投稿となりますが皆様どうぞ宜しくお願い申し上げます。
私は九州出身のせいか、北海道の存在が遠く感じていたのもあり、アイヌ文化については恥ずかしながら今まで歴史の授業でしか印象にありませんでした。日本では、アイヌの存在が歴史的にデリケートなものとして扱われがちな現状を知らされました。
佐藤監督は、アイヌの木彫作家「ユキツグ」という男と知り合い、彼を通じた人間関係とまたその死をきっかけに今作を創られたそうです。本編では、シナリオがあるかのように人間ドラマが描かれている印象でしたが、これはドキュメンタリーなのです。現在上映中の『kapiw(カピウ)とapappo(アパッポ) アイヌの姉妹の物語』の監督、佐藤隆之さんの舞台挨拶が先日4月8日(土)の作品上映後に行われました。
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佐藤監督(以下、佐):
多分、この作品はアイヌについて詳しく知りたい人にとっては、あんまり解らないんじゃないかと思うんです。ひょっとしたら物足りなかったのかもしれません。
当館代表平塚(以下、平):
佐藤監督との最初のご縁は、シネマ・チュプキ・タバタ立ち上げの時です。ユニバーサルシアターということで、日本語の台詞の部分にも日本語の字幕が付いて、座席で音声ガイドを聴くことができます。それは、視覚に障害がある人にもどんな映像なのか解説する音声ガイドというナレーションが入っています。
監督がそういった「バリアフリー版をつくりたい」ということで相談に来てくださいました。私達は音声ガイドを制作させていただいていてるので、まず監督の作品を拝見させていただいたところ「何をポイントに解説をすれば良いですか?」と最初私達が監督に訊きましたよね。
特にアイヌの歴史とか、民族の事をテーマにしているのではなくて「凄く人間を描きたいんだ」ということをおっしゃっていて、なるほど、そこをポイントにすればいいのか!となったのを覚えています。
佐:
僕自身、アイヌに興味を持ったのは20年前でした。それで色んな本を何十冊も読んだり、音楽を聴きに行ったり、講演会に行ったりしました。その結果どうなったかというと、政治的な事、歴史的な事を学べば学ぶ程、こう…僕の中で段々垣根ができていくんです。僕が何かした訳じゃないんだけど、和人がアイヌ民族に対して行った事が罪悪感となって…で、結局、アイヌに責められてるような気がしてきたんです。
政治的な事や失われた文化等の切り口で考えると、そのような垣根ができてしまうんだけど、いずれはアイヌをテーマに映画をと思っていましたが、そういった文化や歴史の切り口ではないものにしたかった。つまり※ノーマライゼーション的なものにしたかったんです。
※【ノーマライゼーション】…1960年代に北欧諸国から始まった社会福祉をめぐる社会理念の一つで、障害者も、健常者と同様の生活が出来る様に支援するべき、という考え方(参照:Wikipedia)
平:
そう思ったきっかけのひとつとして、実際にアイヌの方と知り合われて、交流があったからこそなんじゃないかなと思うんですけど、すごく影響を受けた「エカシ(長老)」との出会いが一番最初だったんでしょうか?
佐:
いかにも「あっ、アイヌだな」と意識したエカシ(長老)、ご存知の方もいらっしゃると思いますが※※秋辺今吉(あきべ・いまきち)さんというエカシの方で、それは僕が映画の助監督をやってた頃に、ある劇映画でアイヌのエカシの所作の撮影がありまして、その内容を指導するために秋辺さんが阿寒湖から来てくれたんです。僕はその人の所作をビデオに撮って、俳優さんに見せる事をやってたんです。とにかく秋辺さんはもの凄い存在感なんです。髭もじゃで、険しい顔してて、声も太くて…その人を見てたからすっげーなぁと思って。アイヌ民族に、あんなに圧倒的な存在感のある人がいるんだとびっくりしました。それがはじめての体験です。
※※【秋辺今吉(あきべ・いまきち)】…作中にご出演の秋辺日出男(あきべ・ひでお)さんのお父様
それから15年位経ってから…本格的にこの映画の準備を始めたんですけど、東京で活動しているアイヌの人たちって、運動系の人が多いんです。つまり自分たちの権利を強く主張する事が多くって、そういう人たちと一緒にいるとなんか「ふにゃっ」となっちゃう。一方、この絵美・富貴子姉妹たちと出会うと、なんて言うかな、誇りも考えもあるけど凄くナチュラル。そういうことを描いた映画があってもいいのかな、と思って。そういう意味でまぁ最初言ったようにあんまり知識としては得られない映画になったけど、僕にとっては、まぁそれもいいんじゃないかと思っています。
平:
パンフレットに「この映画のはじまり(ユキツグのこと)」というのがあって、興味深くて読んでいましたが…。
佐:ユキツグさんは、中野にアイヌ料理屋さんがあったんですが、そこに居候みたいにしてた木彫作家のおじさんです。その人は歳は僕より上だったけど、自然に僕と仲良くなったんですね。で、元々阿寒湖近くの人だったんだけど、時々東京に来ては木彫りをし、北海道に戻り…と、わりと風来坊だったの。
そんな彼が静岡に引っ越し、廃屋を借りてね。屋内キャンプ生活みたいなことをやりだしたんです。仲が良かったから、僕も居候みたいな事をしながら10日間くらい生活した事もあったんですね。
で、2年後、もの凄く暑い夏に彼は突然死んじゃうんです。衝撃を受けました。他に彼のファンが多くいて、その彼と今作品の主人公の女性2人ってのはやっぱり深い付き合いだったんですね。まぁ、その間接的ですけど、彼との出会いと付き合いがあって、この作品を作る事ができたと思っています。
平:
その時に監督が、そのユキツグさんが亡くなって落ち込んでいるときの絵美さんの唄に…。
佐:
ユキツグさんが亡くなったその秋に追悼キャンプをやったんです。絵美さんも参加してて、山の中のキャンプ場で唄「エアウア」、映画の最後に流れるやつですけどみんなでしんみりユキツグさんのことが好きだったのが20人程集まっていたのかな?たき火を囲んで飲みながら彼の思い出話をみんなでしてる時に絵美さんが「じゃぁ、ちょっと歌おうか?」と、独りで歌い出したんですね。その事が凄く印象深かった。こういう唄を歌える絵美さんは凄いなって。それでこの映画を作ろうと思ったんですね。
平:
「とにかく唄が凄いから!」って、最初にお話したときも、監督が「もう、最後にあの唄を聴いてもらえれば僕はもうそれでいい」と凄い思いを込めておっしゃってたのが印象に残っています。
佐:
最後のライブの場面ね、「あのライブは素晴らしい」って言ってくれる人もいるんです。じゃぁ、そのライブに至る迄のところはどうなのかというと、首を傾げる人もいらっしゃるんですけど(笑)でもね、それはある種僕の狙いで、最後の彼女達の唄がどうしてできるのか?どうしたらああいった唄になるのかを知りたいと思ったんです。それにはやはりアイヌの事が書かれた本を読むのではなくて、彼女たちの生活そのものをまず描きたい!と、演出しないでドキュメントとして撮るわけですけど、結局これはドラマになったと思ってるんですね。
平:
カピウとアパッポが結成される事も偶然という事なんですよね?
佐:
あの2人は僕とは別々でつながった訳なんですけど、多分あのキャラクターだったら何か起こる。僕は映画でも言っているんですけど彼女達にデュオをやってほしいと思ってましたし、いずれそうなるだろうと思ってたんです。それはまぁ、たまたま震災が起こって、急に動き出したという事です。
平:
制作期間が6年間でしたっけ…ずっと張り付いて撮ってたんですか?
佐:
実際は全体で5年です。いや、張り付いて撮ってたのが1年半くらい。で、その後補足のための素材を集めたりしたし、他の撮影をしたり、なかなか入り込めない状況で3年位かかって、そして完成して公開できるようになるまで1年かかって…とても商売として成立しない(笑)やり方でやってました。
平:
長く大林宣彦監督の下で助監督をされていて、で、この作品を撮るときにはもう助監督を辞められて…。
佐:
うん。辞めました。僕自身の事で言えば、21歳位でフリーで映画の助監督を始めて、大林宣彦さんの作品を4本くらいやりまして、そのあと色々な監督と10年くらい仕事して、そしていっぺんテレビドラマで監督になったんですよ。でもなかなか食って行けず、助監督の仕事も段々減ってきて、結局食い詰めたわけですよ。で、タクシードライバーをやろうと。
まぁ、タクシーは10年くらいやってます。これまた面白い仕事でね、全然邪魔にならないというかね、それをやりながらこれを作ったんです。
平:
作品は、絵美さんと富貴子さんが中心ですけど、そこにカメラがあることを忘れちゃってるんじゃないかって位に自然な姿が切り取られていると思うんですが、監督はその辺は何か意識されて撮られてましたか?
佐:
それよく言われます(笑)当然彼女達は撮られている事に気付いているわけで、だからといってかっこつけようと思ってない…というのも彼女達のいいところです。
それは多分、僕と彼女達との関係性の中で、「どうなるか解らないけどとりあえず撮るよ」ということで、それが映画になる事は彼女達に想像がつかない。「何で私たちが映画になるの?なるわけないじゃん!」というのがあったの。そして、撮ってる方もこれが映画になるという確証はない。でも、撮らないとどうにもならないし…で、撮っていけば彼女達はきっと何か起こしてくれる。という確信はありました。
平:
そういう自然さだったんですか?(笑)喧嘩のシーンとか面白かったですよね。
佐:
うん(笑)あれはねぇ、なかなかねぇ。ああいう状況になかなかならないと思うしね。シナリオ書いて台本があって演じる事でなるのは解るけど、ドキュメンタリーではね(笑)まぁ割と短い期間でそういった事が起こったのは…。
平:
そうなんです。相当長く密着して撮ってたのかと思っていました!
佐:
さっき言ったように震災から急激に運んだんですよ。我々の物事はね。
平:
さて、小さい映画館ですので、こんな近距離での対談は滅多にないと思います。もし監督に何か色々質問したいという方がいらしたら是非どうぞ。
男性客A:
この映画館は「チュプキ」でアイヌ語ですよね?ここでこの映画を上映されるという事を…何か縁でも…。
佐:
チュプキってアイヌ語で「自然の光」っていう意味なんですって!それは、僕よりもむしろ平塚さんがびっくりしてた(笑)
平:
びっくりしました!まずは、何で「チュプキ」なのかよく訊かれるんですけど、とどのつまりはインスピレーションというか、アイヌ語が良いなぁとふっと思って。で、「C」からはじまる言葉にしたいというのがあったんです。前身の団体「シティライツ City Lights」の頭文字が「C」だし、シネマの「C」もあるし。そこで「C」を頭文字にしていることばを見ながら、月とか太陽とか自然に光っているものはすべてチュプキで表現できるみたいな、このような広い言葉にハッとさせられて、ありのままの自然の光というのがチュプキなんだということで「これだ!」となったんですけど。
佐:
そういうコンセプトの中、僕が映画を持ってきて、彼女が「わぁ、アイヌだ!」とびっくりしたわけです。僕もびっくりした。ね、だからある種運命的な…。
平:
そうですね。これは「カムイ」が降りてきたなぁと(笑)
会場:(笑)
平:
ほかに、どなたか…遠慮なく手を挙げてください。
女性客:
内容は良かったんですけど私、これ、前に他の劇場ではじめて観た時に、場面の変わりが早いのと、音声が聴き取りにくかったんですよ。なのでよく解らなったところがありました。
2回目、音声ガイドを聴いてみたんですね。それが凄く面白くて!字幕も出てますよね。聴き取れなかったところの文字が読める、で、私が知らない情報もイヤホンから入ってくる、で、音楽も入ってくる、もうね、凄かったんですよ。今日の感動は!
ここは音が良いから…音声ガイドも面白かった。相乗効果というか、「あーこれはいい映画だな」と。もしかしてこの映画は1回目観てよく解んなかったらもう一度観たらいいと思う。絶対違う。最初は情報が多すぎて解んないと思うんですよ。追っかけるのが一生懸命で。頭ン中いっぱいになるから。みなさんには私、お勧めします。2回観てください(笑)
佐:
僕なりに拡大解釈すると、観るたびに毎回何かを発見する…隠れキャラじゃないですけど、そのようにおっしゃる方はいらっしゃいますね。
女性客:
単純にアイヌ民族の事もそうだと思うけど、人が生きてるって感じが凄くする。ああ、生きてて、唄があって、本当に、なんかこう…一緒に生きてる感じがする映画だなと思いました。
佐:
僕もね、前ここに来て字幕付きのやつを観たんですよ。撮影の時の音と、台詞がちゃんと聴き取れないことがあるので、今指摘されたように字幕とかあったほうがひょっとしたらいいのかも解らないなぁと思ってました。音声ガイドがそんなに面白かったのかと思えなかったんだけど…
平:
収録立ち会ったじゃないですか(笑)
佐:
いやいや、その時はそんなに面白かったとは思えなかった。
平:
新たな鑑賞ツールとして、目の不自由な方のために作ってますけど、視えてても気付かない事とか解らないような事とかが解説的に聴けたりしますので是非一般の方にも利用して頂きたいと思います。
私はカイヌマさんを最初観たときにただ鼻についたんですよ。絵美さんにふられちゃって、1人取り残されたカイヌマさんが何か淋しくガードマンをやっている(笑)何か凄い背中が淋しい感じがね…だんだんカイヌマさん好きになってきました…音声ガイドを作るにつれて(笑)
佐:
最初はだいたい彼を拒否するんですよ。「イヤだっ」って怒る人もいる位なんですけど慣れてくるとクセになるということでね (笑)彼は僕と対談することになっていまして…僕は別に仲悪くないですよ。
平:
15日、生のカイヌマさんを大変楽しみにしています(笑)
佐:
あと他にはどなたか…聞きたい事とかないですか?苦情でもいいんですけど(笑)
平:
苦情を求めてるんですか?何か監督マゾっぽいところがある(笑)
佐:
普通、悪く言ってはいけないという心理が働いて、ついつい良いことを言ってしまう人が多いと思うんですけど、それでは物足りない気がしますので…。
男性客B:
私は佐藤監督と同じタクシードライバーなんで、よく両立できたな!と思うんです。タクシーをやりながらよくこのような立派な映画をつくられたということで…尊敬しますね。
感想ですが、作中の唄の中に歌詞のカタカナだけでなく、アイヌ語の意味等の文字が入ったらよりいいなぁと思ったんですけど…。
他のお客様:
全部ではないですけど…出てました。
男性客B:
出てましたか?
佐:
最後のコンサートの場面では、僕も唄の意味を知りたかったから文字を入れました。そこだけ力入れて!それは短いんですよ。何故短いかっていうと、唄が短いというのもあるんですけど歌詞自体がシンプルなんですよ。見たものをそのまま歌詞にしてたり…もうちょっと何かあるだろうと思うんですけどね…物足りなかったけど、その繰り返しなんです。
男性客B:
そうだったんですね、ありがとうございました。
平:
最後に監督からこれだけは伝えたいというのはありますか?
佐:
アイヌの事は、日本に生きてる以上は必要な知識だと思います…ごく普通ですよ、アイヌの方は。そうじゃない方もいますが。あんまりそういう垣根を意識しないで普通に付き合えば多分、アイヌヘイトとか色んな差別とかがなくなっていくんじゃないかなーと…。
まぁ要するに好きな人と付き合えばいいって話だと思うんです。僕だってアイヌだからって嫌いな人もいるし好きな人だっています。どの民族でも同じだと思うんです。そういう意味では、ノーマライゼーションみたいな映画だと思うし、そういう風に意識して頂けたら嬉しいなと思います。
平:
ありがとうございました。あっ!ところで今日は大事な日じゃないですか?監督、今日は何歳になったんですか?
佐:
35になりました(笑)あっ、56になりました。いいじゃないですか、そんなこと(笑)
平:
お釈迦様と同じ日…誕生日おめでとうございました!
会場:(拍手)
平:
この映画をきっかけにアイヌの事を知っていただけたらいいと思います。どうもありがとうございました。
佐:
ありがとうございました!
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監督のお人柄が垣間見える心温かくなる舞台挨拶でした。
映画は当館にて水曜を除く4月30日(日)まで、毎日19:00から上映中です。
本作は「唄」を聴くという目的でも楽しむ事ができます。映画をご覧になってより興味を持たれた方は、カピウ&アパッポの10曲入CD「Paykar(パイカル 春)」(2,160円)や、読み応えのあるパンフレット(700円)も取り揃えてありますので、お手に取っていただけましたら幸いです。